前回のブログ更新から1週間以上が経ち、7人制ラグビー競技が終わっても東京五輪の競技への興味、興奮は冷めやらず、同じ女子でバスケットボール日本代表が決勝に進出して、最終日の8日に絶対王者の米国と戦い、銀メダルを獲得したニュースは本当に凄かったですね。
女子バスケはサイズでは明らかに相手より劣っていましたが、素早い動きでDFをかく乱し、外からの3Pを主体にATを組み立てていて、相手DFがそれに対応してインサイドが空けば素早く切り込んだり、巧みなパスから得点を重ねたり、勝ちパターンが明確でした。競技特性と相手の強み弱みを理解したうえで、自分たちの戦い方に自信を持って戦っていたと思います。
さてサクラセブンズは2016年のリオ五輪、そして2021年の東京五輪と目指していた結果にはたどり着けず終わってしまいました。今日11日に日本協会の総括会見が行われましたね。昨日はTwitterでリオと東京の試合の勝敗と得失点差を載せました。
本城チームディレクターの会見でのコメント、確かにその通りなんですが、やはり聞いていて虚しく感じてしまう部分は正直あります。結果だけを見るのもいけないのですが、やはり残念な結果はそうさせてしまいますね。自分なりにリオと東京を比較してみました。
まずリオ五輪ですが、当時は周りからの期待が凄く高かったのを感じています。もちろんチーム、選手が「金メダルを目指す」と公言していたことがあると思います。一部のメディアでは「男子より女子のほうがメダルの可能性が高い」というコメントも見かけたと記憶しています。私は2014年にTKMでフルタイムのコーチとして活動するようになってから、女子ラグビーに関わり始めましたが、現場をある程度知っている私の印象は正直「あまり知らないで、適当なこと言ってるな」でした。実際、本当に厳しい練習を重ねてきたサクラセブンズのある選手から「大会前はメダルを取れると思っていた」と大会後に聞きました。
結果は10位でしたが、当時の代表チームの成熟度はかなり高かったと思います。まず打倒中国を目指しての強化から、2014年のアジア大会では惜しくも銀メダルでしたが、翌年のアジア予選ではしっかり勝利して出場権を獲得。予選は東京ラウンドも行われましたが、その時の主力メンバーの多くがそのままリオの代表メンバーに選ばれました。もちろん相手はそれ以上に強かったから勝てなかった。当時は格下だったケニア相手には24-0と快勝したように、少なからず手ごたえもあったのかなと思いました。予選プール初日でカナダ、イギリスにそれぞれ大敗しましたが、記憶にあるのはキックオフでの攻防に負けて、ボールを持って攻める機会が作れなかったです。相手は日本の弱点であるサイズ、フィジカルを分かったうえでキックオフにかなりのプレッシャーをかけてきて、日本はそれに対応できませんでした。またDFでも一気に前に出る練習をしてきましたが、予選、最終戦と戦ったブラジルはそれに対応し、前に出てきたDF裏へのキックで、味方を走らせてトライを奪ったり、研究していました。結局のところ、成熟度は高かったが対応力はあまり高くなかった。自分たちのラグビーを貫こうとした結果、強みを磨き、それらの弱点を対策する時間的余裕がなかったのかもしれません。
そんなリオの10位から始まった東京五輪メダル獲得へ向けての険しい道のり。代表選手の世代交代も進める中、高校生の平野選手や大学生の堤選手、ライチェル選手ら若い世代の力も加わり、2017年に香港で行われたワールドシリーズへの昇格決定戦で南アフリカに勝って優勝、2018年のアジア大会では決勝で中国を相手に粘り強く守り抜いて金メダル、2019年にイタリアで行われたユニバーシアードでの金メダル獲得などがありました。一方で北九州に招致したワールドシリーズでは2年連続全敗で12位、2018年に米国サンフランシスコで行われたW杯では10位に終わるなど、世界の強豪を相手にトップ8に入ることは叶わないことが続きました。2018年W杯後の日本協会HPのコメントはこちら(この大会ではフィジーに15-14で勝利)。
それでも東京五輪への強化を進める中でコロナ禍の影響により1年の延期が決定。何とか海外との差を埋めるべく、国内での強化を続ける中で新たな代表候補メンバーがセレクションに加わったこと。そして大会まで1年を切った12月にマキリHCの就任が発表されました。海外の強豪との試合もドバイ遠征のみと限られる中、国内でSDSを相手に試合形式を重ねるなどして、セレクションを進め、7月に発表された内定メンバーは大きく若返りました。総括会見での本城TDからのマキリHCへのコメントはこちら。
読んでいて、本当にその通りだなと感じました。前任の稲田さんも引き続きチームにはスタッフの1人として名前を連ねてはいましたが、実際どの程度の引継ぎや協力が出来たのかはわかりません。ただリオから東京までの5年間で強化すべきだった課題のフィジカルの部分では、差を埋めるどころか広げられていました。キックオフの攻防、特にレシーブの面は改善されていましたが、レシーブして自陣からのアタックの中で、どう攻め込むかの形を作れず。今思うと、もしかしたら日本の相手はそれを踏まえたうえで、キックオフ後の激しいDFでターンオーバーを狙って、トライチャンスを作る戦術だったのかもしれません。メンバーが若返り、国際大会の経験が少ない選手もいたサクラセブンズ、チームの成熟度、経験はリオと比べると満足いくものではなかったです。ただベテランの選手を入れれば結果が変わったかどうか、それはわかりません。あとは個人で突破できる選手、走り切れる選手がいませんでした。リオの時は山口選手というはっきりとしたエースがいました。東京では外に原わか花選手というエースがいましたが、常に全力で走り回るプレースタイルで、トライ場面もありましたが、太陽生命WSSの時のような相手DFを振り切る快走はほとんど見られず。これまで代表の試合で快走を見せたエースの堤選手はSHで出場することが多かったですが、WTBをやっていた時のような走りを見せたのは数えるほどでした。
フィジカルに目を向ければ、セレクションから外れた大黒田選手は明らかに体つきが大きくなっていました。リオでの負けからそこで相手に負けないよう、身体作りに一層励んできたと感じています。しかし国内では活躍できても、代表に求められる海外の強豪国相手と戦えるフィジカルレベルまで持っていくにはかなりの時間がかかると思います。そういう意味では、次のパリ五輪に向けて、具体的には2年後に行われるであろうアジア予選に向けて、今回の五輪メンバー含め、若い代表候補メンバーのフィジカルを鍛えていかないといけません。その一方でスピードやステップなど1対1で突破できる選手、自分から仕掛けてチャンスを作れる選手を発掘、育成、強化していかないといけませんね。
もう一度整理すると、東京の代表メンバーは若くてスキルの高いメンバーが多く選ばれましたが、その良さを発揮する経験やチームの成熟度は残念ながら足りなかった。そして何よりラグビーという競技の戦いでベースとなるフィジカルの部分で、全体として戦えるレベルには達していなかった。リオでのたくさんの反省を踏まえて、代表チーム主体で強化に費やした5年間は決して無駄ではなかった。しかし悔しいけれど、結果を見れば全く良いものではなかった。これまでの協会の運営や体制を批判する気はありませんし、9月以降にどんな新体制になるのか、期待はしています。しかし次の大きな目標を考えると、大きな変化、抜本的な改革は求めていかないといけません。太陽生命WSSに出場しているような国内女子の強豪チームはこれまでも代表チームに所属選手の長期間の派遣など大きく協力をしてきました。それを考えると、今の時点では今度どう強化をしていくか不安ばかりな気持ちです。
関係者の誰もが納得のいく体制、強化などは相当難しいでしょう。正直、わかりやすい強化の方法は海外からトップの指導者を招集すること。それは男子15人制のエディーさんや現HCのジェイミーさん+トニー・ブラウンもそうですし、東京五輪で銀メダルを獲得した女子バスケのHCもバックグラウンドはエディーさんと共通する部分がたくさんあるような呟きを見ました。それでもこれまで頑張ってきた国内の多くの指導者もいますし、時には厳しい意見をぶつけたりしながら、代表チームから国内の各チーム、ジュニア世代の育成を含めたチームJAPANの体制を1日でも早く作り始めて、築き上げていってほしいなと思います。
今回も長くなってしまいました。批判的な文章もありますが、良い部分は伸ばし、直すべき部分は少しでも直して、いつかW杯や五輪で満足する結果が得られるように、これからもチームJAPANで頑張っていきましょう!