女子セブンズ、リオと東京を比較して考えてみる

前回のブログ更新から1週間以上が経ち、7人制ラグビー競技が終わっても東京五輪の競技への興味、興奮は冷めやらず、同じ女子でバスケットボール日本代表が決勝に進出して、最終日の8日に絶対王者の米国と戦い、銀メダルを獲得したニュースは本当に凄かったですね。

女子バスケはサイズでは明らかに相手より劣っていましたが、素早い動きでDFをかく乱し、外からの3Pを主体にATを組み立てていて、相手DFがそれに対応してインサイドが空けば素早く切り込んだり、巧みなパスから得点を重ねたり、勝ちパターンが明確でした。競技特性と相手の強み弱みを理解したうえで、自分たちの戦い方に自信を持って戦っていたと思います。

さてサクラセブンズは2016年のリオ五輪、そして2021年の東京五輪と目指していた結果にはたどり着けず終わってしまいました。今日11日に日本協会の総括会見が行われましたね。昨日はTwitterでリオと東京の試合の勝敗と得失点差を載せました。

本城チームディレクターの会見でのコメント、確かにその通りなんですが、やはり聞いていて虚しく感じてしまう部分は正直あります。結果だけを見るのもいけないのですが、やはり残念な結果はそうさせてしまいますね。自分なりにリオと東京を比較してみました。

まずリオ五輪ですが、当時は周りからの期待が凄く高かったのを感じています。もちろんチーム、選手が「金メダルを目指す」と公言していたことがあると思います。一部のメディアでは「男子より女子のほうがメダルの可能性が高い」というコメントも見かけたと記憶しています。私は2014年にTKMでフルタイムのコーチとして活動するようになってから、女子ラグビーに関わり始めましたが、現場をある程度知っている私の印象は正直「あまり知らないで、適当なこと言ってるな」でした。実際、本当に厳しい練習を重ねてきたサクラセブンズのある選手から「大会前はメダルを取れると思っていた」と大会後に聞きました。

結果は10位でしたが、当時の代表チームの成熟度はかなり高かったと思います。まず打倒中国を目指しての強化から、2014年のアジア大会では惜しくも銀メダルでしたが、翌年のアジア予選ではしっかり勝利して出場権を獲得。予選は東京ラウンドも行われましたが、その時の主力メンバーの多くがそのままリオの代表メンバーに選ばれました。もちろん相手はそれ以上に強かったから勝てなかった。当時は格下だったケニア相手には24-0と快勝したように、少なからず手ごたえもあったのかなと思いました。予選プール初日でカナダ、イギリスにそれぞれ大敗しましたが、記憶にあるのはキックオフでの攻防に負けて、ボールを持って攻める機会が作れなかったです。相手は日本の弱点であるサイズ、フィジカルを分かったうえでキックオフにかなりのプレッシャーをかけてきて、日本はそれに対応できませんでした。またDFでも一気に前に出る練習をしてきましたが、予選、最終戦と戦ったブラジルはそれに対応し、前に出てきたDF裏へのキックで、味方を走らせてトライを奪ったり、研究していました。結局のところ、成熟度は高かったが対応力はあまり高くなかった。自分たちのラグビーを貫こうとした結果、強みを磨き、それらの弱点を対策する時間的余裕がなかったのかもしれません。

https://www.youtube.com/watch?v=Yc24x0sqIMw
Youtubeで検索したら予選のブラジル戦がたまたま見つかったので紹介、10-26の逆転負け

そんなリオの10位から始まった東京五輪メダル獲得へ向けての険しい道のり。代表選手の世代交代も進める中、高校生の平野選手や大学生の堤選手、ライチェル選手ら若い世代の力も加わり、2017年に香港で行われたワールドシリーズへの昇格決定戦で南アフリカに勝って優勝、2018年のアジア大会では決勝で中国を相手に粘り強く守り抜いて金メダル、2019年にイタリアで行われたユニバーシアードでの金メダル獲得などがありました。一方で北九州に招致したワールドシリーズでは2年連続全敗で12位、2018年に米国サンフランシスコで行われたW杯では10位に終わるなど、世界の強豪を相手にトップ8に入ることは叶わないことが続きました。2018年W杯後の日本協会HPのコメントはこちら(この大会ではフィジーに15-14で勝利)

2017年は昇格がかかった南アフリカとの決勝で逆転勝利

それでも東京五輪への強化を進める中でコロナ禍の影響により1年の延期が決定。何とか海外との差を埋めるべく、国内での強化を続ける中で新たな代表候補メンバーがセレクションに加わったこと。そして大会まで1年を切った12月にマキリHCの就任が発表されました。海外の強豪との試合もドバイ遠征のみと限られる中、国内でSDSを相手に試合形式を重ねるなどして、セレクションを進め、7月に発表された内定メンバーは大きく若返りました。総括会見での本城TDからのマキリHCへのコメントはこちら。

読んでいて、本当にその通りだなと感じました。前任の稲田さんも引き続きチームにはスタッフの1人として名前を連ねてはいましたが、実際どの程度の引継ぎや協力が出来たのかはわかりません。ただリオから東京までの5年間で強化すべきだった課題のフィジカルの部分では、差を埋めるどころか広げられていました。キックオフの攻防、特にレシーブの面は改善されていましたが、レシーブして自陣からのアタックの中で、どう攻め込むかの形を作れず。今思うと、もしかしたら日本の相手はそれを踏まえたうえで、キックオフ後の激しいDFでターンオーバーを狙って、トライチャンスを作る戦術だったのかもしれません。メンバーが若返り、国際大会の経験が少ない選手もいたサクラセブンズ、チームの成熟度、経験はリオと比べると満足いくものではなかったです。ただベテランの選手を入れれば結果が変わったかどうか、それはわかりません。あとは個人で突破できる選手、走り切れる選手がいませんでした。リオの時は山口選手というはっきりとしたエースがいました。東京では外に原わか花選手というエースがいましたが、常に全力で走り回るプレースタイルで、トライ場面もありましたが、太陽生命WSSの時のような相手DFを振り切る快走はほとんど見られず。これまで代表の試合で快走を見せたエースの堤選手はSHで出場することが多かったですが、WTBをやっていた時のような走りを見せたのは数えるほどでした。

フィジカルに目を向ければ、セレクションから外れた大黒田選手は明らかに体つきが大きくなっていました。リオでの負けからそこで相手に負けないよう、身体作りに一層励んできたと感じています。しかし国内では活躍できても、代表に求められる海外の強豪国相手と戦えるフィジカルレベルまで持っていくにはかなりの時間がかかると思います。そういう意味では、次のパリ五輪に向けて、具体的には2年後に行われるであろうアジア予選に向けて、今回の五輪メンバー含め、若い代表候補メンバーのフィジカルを鍛えていかないといけません。その一方でスピードやステップなど1対1で突破できる選手、自分から仕掛けてチャンスを作れる選手を発掘、育成、強化していかないといけませんね。

もう一度整理すると、東京の代表メンバーは若くてスキルの高いメンバーが多く選ばれましたが、その良さを発揮する経験やチームの成熟度は残念ながら足りなかった。そして何よりラグビーという競技の戦いでベースとなるフィジカルの部分で、全体として戦えるレベルには達していなかった。リオでのたくさんの反省を踏まえて、代表チーム主体で強化に費やした5年間は決して無駄ではなかった。しかし悔しいけれど、結果を見れば全く良いものではなかった。これまでの協会の運営や体制を批判する気はありませんし、9月以降にどんな新体制になるのか、期待はしています。しかし次の大きな目標を考えると、大きな変化、抜本的な改革は求めていかないといけません。太陽生命WSSに出場しているような国内女子の強豪チームはこれまでも代表チームに所属選手の長期間の派遣など大きく協力をしてきました。それを考えると、今の時点では今度どう強化をしていくか不安ばかりな気持ちです。

関係者の誰もが納得のいく体制、強化などは相当難しいでしょう。正直、わかりやすい強化の方法は海外からトップの指導者を招集すること。それは男子15人制のエディーさんや現HCのジェイミーさん+トニー・ブラウンもそうですし、東京五輪で銀メダルを獲得した女子バスケのHCもバックグラウンドはエディーさんと共通する部分がたくさんあるような呟きを見ました。それでもこれまで頑張ってきた国内の多くの指導者もいますし、時には厳しい意見をぶつけたりしながら、代表チームから国内の各チーム、ジュニア世代の育成を含めたチームJAPANの体制を1日でも早く作り始めて、築き上げていってほしいなと思います。

今回も長くなってしまいました。批判的な文章もありますが、良い部分は伸ばし、直すべき部分は少しでも直して、いつかW杯や五輪で満足する結果が得られるように、これからもチームJAPANで頑張っていきましょう!

日本の女子セブンズのこれからを考えてみる

先週は毎日のように7人制ラグビーを見ていたので、ふと見なくなるとなんか寂しいもんですね。五輪も先週のメダル獲得ラッシュから少し落ち着いた感じがありますね。

まず前回のブログを紹介するときに「外から見た総括」という表現をしましたが、実際に選手のコンディションはどうだったのか、戦略・戦術の落とし込みは満足だったのか、そしてチームの自信はどうだったのか、などは外から見ても実際のところはわかりません。内定メンバーから怪我で離脱した松田選手、米国戦の前半ラストプレーで負傷交代したライチェル海遥選手不在の影響の大きさは、チームにとってかなり打撃だったかもしれません。五輪が終わった後で日本協会で大会総括の記者会見が予定されていますが、そうした外から見えない部分にも触れるかもしれませんね。

また前回の最後に紹介したハッシュタグ「#7人制女子ラグビー改革素案」の件で、主務の部屋さんのTwitterの内容を引用しながら、自分の考えや意見をお伝えしていきます。代表強化よりも育成や普及の内容のほうが多くなるかと思います。見苦しい内容もあるかもしれませんが、興味あればお読みください。

前回も書きましたが「フィジカルとスピードの差をどう埋めるか」という課題。数値目標の共有、全国の選手・指導者の共通理解を進める、というのは良いアイデアだと思います。選手のわかりやすい目標、モチベーションのアップにも繋がりますよね。海外の代表チームのデータもあると、さらに効果がありそうです。協会主導で明確化する、という点が気になりますね。ある知り合いの指導者の話では、今は海外の強豪国の指導者同士が繋がっていて情報をある程度オープン化し共有しているそうです。全てをオープンにする必要はないですが、例えば代表チームの平均値とか、MAXの重量、ブロンコの最速タイム、20mシャトルランの最大レベル、などで良いかと思います。協会主導というのは、代表主導ということかもしれませんが、誰がやるのかはっきりしないところがありますね。上手くシェアできる環境があるとよいですし、全国のチームから協会にお願いする形もありますね。ただ数字が独り歩きすると、また意図とは違う意味合いを持ってしまう恐れもあります。

数年前にコベルコカップに出場する関東高校女子チームのサポートをしていた際、セレクションで立ち幅跳びの測定を行っていました。当時は千葉ペガサスの監督を務めていて、今回の東京五輪で話題を集めた陸上の寺田明日香選手が所属していたのもあり、その場で寺田選手に連絡して自己ベスト記録を教えてもらい、高校生の選手に伝えたら目を大きくしていました(記録はうる覚えですが250㎝以上だったかな)。日本人はいわゆる欧米の白人系に比べて体を大きくするのに長い時間がかかるイメージがあります。セブンズユースアカデミーはリオ五輪にも出場した兼松さんが担当していますし、そういうフィジカルの課題克服に向けた目標設定、トレーニングの正しいやり方や食育、栄養学、の指導も行っているでしょう。

ハイレベルな試合数の確保について、まず太陽生命WSSが2014年から始まり、これまで女子ラグビーの強化、普及に大きく貢献してくれました。それ以降の5年間で全国に多くの女子チーム(クラブ、大学)が立ち上がる要因にもなったと思います。そしてチャレンジチーム、将来の代表候補の選手たちで構成する即席チームはその年ごとに選手の顔触れが大きく変わることもありましたが、今回の代表チームにも共同キャプテンの清水選手、ライチェル海遥選手は高校生の時にチャレンジチームで年上の大学生やクラブチームとの試合経験を積むことができたと思います。

個人的な危惧ですが、極端に言えば来年以降も太陽生命WSSは行われるのかどうか。もちろん継続して開催されるのを願っていますが、これまで冠スポンサーに対して、どれだけのメリットを与えられたのか。東京五輪の結果に関わらず、大きなターゲットとしていた東京五輪を終えた後の強化予算は間違いなく減るだろうし、厳しくなるだろうと思います。またコロナ禍で応援する企業も経営がこれまでのようにはいかない可能性もある中で、これまでのように大会があるか。数年前は夏にピンクリボンカップという15人制の交流大会もありましたが、続きませんでした。後は太陽生命WSSの競争力向上が必ずしも代表チームの強化には直結しないのもあります。ワールドセブンズシリーズのコアチームに昇格できず、昇格決定戦の開催も未定の中、国内で何とか代表強化を進めていかないといけませんが、極論で言うと国内で海外の強豪国相手のような試合経験(相手が男子でも)は積めない。そう思う理由はリオ五輪の前から東京五輪までの間、強豪国と戦った時の負け方がほとんど変わらないからです。悔しいことに北九州で開催されたシリーズ大会、日本は2大会とも全敗でした。だからこそ試合経験がなくても7位入賞した中国のように、フィジカルでもスピードでも鍛えられる部分をしっかり鍛えて、それに後で経験を加えられるような強化を1日も早く進めていかないといけません。

15人制とのシーズン時期や試合数について、まず年間スケジュールは今のフォーマット(2月~7月はセブンズ、9月~2月は15人制)のままでよいかと思います。前の段落で話した太陽生命WSSも春開催のみで良いと思います。その中で参加チーム数の増減やリージョナルセブンズをどうするか、全体の最適化を行う必要があります。昨年5月に太陽生命のフォーマットについてブログで書いたので、興味ある方は見てみてください(ABの2部リーグ制)。個人的には大事なテーマですが、みんなで議論し始めると収拾がつかなくなりますし、下手すると15人制の代表強化に良くない影響もあります。もし15人制の代表強化をセブンズ並に出来たら、目標としているW杯ベスト8進出は大きく近づくでしょうが、これはあくまで仮の話です。3月のブログでも書きましたが、再来年の秋から女子の新たな国際大会が始まりますそれを見越して、今あるものをどう最適化していくか、これは協会主導で考えなければいけませんね。

7人制に特化した指導者の育成について、2016年に女子7人制ラグビーが国体でも正式種目になり、この5年間の間にほぼ全部の都道府県で女子チームが出来ました。そして女子チームの指導者は多かれ少なかれ、男子との違いに戸惑い、苦労が絶えないと思います。協会として、指導者のライセンス有資格者を増やすべく、各レベルの講習会を行っていますが、その内容にセブンズの要素も少しは入っているかとおもいます。さらにセブンズに特化した指導者を増やすのであれば、主務の部屋さんが提案した通り、代表スタッフが全国を回って講習会を行うような取り組みはありだと思います。以前にエディーさんが日本代表HCを務めていたころ、各地に出向いてコーチングクリニックを行い、指導者の育成と若い選手の普及に貢献していました(ちなみに代表チームとの契約内容にこれらの活動は含まれていなかったとか)。本当に日本ラグビーの強化に貢献してくれたと感じる指導者は全国に多いでしょう。そういった試みから協会・代表チームへの信頼、興味、応援が増えていくことも期待できます。

またセブンズのコーチングについての本などもありますが、まずはセブンズという競技の中身、戦略・戦術、トレンドなどの情報をオープン化していくことで、上記の話はある程度進められるのではないかと考えています。2019年W杯の開催前、中高生の育成年代への指導やタレント発掘を行っている野澤武史さんが「このW杯を機にポッドシステムが日本に広まる」と講演の場で話していましたが、その通りになりました。国内では15人制が主流なのもあり、7人制のトレンドをよく理解していない指導者はもしかしたら多いのかもしれません。かくいう私も3年前に女子7人制の現場を離れてから、もうついていけていない部分もあるくらいです。セブンズの普及に日本協会としてどう取り組んでいくか、方向性は見えませんが、現場レベルで情報の共有できる仕組みはここでも求められるというか、あればもっと良くなるかと思います。代表の強化に関しては、本当に少数精鋭で進めていく方向になるかと予想しています。

長くなりましたが、最後に先ほども名前の出た野澤武史さんが朝日新聞に東京五輪の女子セブンズを振り返る記事があったので、リンクを紹介します。「最下位に沈んだセブンズ、パリ見据えて根本改善を お手本はバレー」なお有料会員記事になりますので、ご了承ください。それと早稲田大学ラグビー部コーチの後藤翔太さんが振り返った記事もあるので、同じく紹介します。「RUGBYJAPAN365プレミアムページの後藤翔太さん「Shota’s Check」東京五輪女子セブンズレビュー」こちらも同様、会員専用の記事になります。女子ラグビーをよく知るお二人の振り返りは、なるほどと思わせてくれる意見ばかりです。ありがたいですね。

女子ラグビーの代表チームの強化を考えると、どんどん話が長くなってしまいますね。すみません。まだ海外のチームとの比較だったり、代表選手のセレクションだったり、今後の具体的な強化だったり、整理したい内容がありますが、3日間連続で更新して、少し息切れしています。今週中にまた更新出来ればと思います。長文、お読みいただきありがとうございました。

東京五輪、女子セブンズの戦いを記事と振り返る

まず26日から始まった7人制ラグビー競技が終わり、著名なスポーツジャーナリストの何人かがすでに振り返る記事をアップしているので、3つの記事の内容を紹介しながら自分の感想も加えていければと思います。

まず女子の大会中の3日間、Twitter上でお世話になった斉藤健仁さんの記事から「女子ラグビー メダルを狙った若き「サクラセブンズ」は1勝もできず、悔し涙で大会を終える

サクラセブンズを振り返る内容で、大会7か月前に就任したマキリHCの就任時のコメントやメンバー選考、4月のドバイ遠征の結果、東京五輪を終えての選手のコメントもあり、非常にわかりやすい記事です。ドバイ遠征は東京五輪にも参加したチーム6か国が集まり、映像は全く見れませんが、発表されたスコアを見ると、まだまだ世界との実力差はあるなと私も感じていました。そこから約3か月で迎えた本番の五輪での結果については、「◆一貫性がなく、迷走したサクラセブンズの強化」という段落名でまとめていますが、新しいHCのもと戦略・戦術を落とし込む時間が十分とは言えず、コロナ禍の影響で海外勢との試合経験も積めなかった、とあります。本当にその通りですね。チームが若返って、経験が足りない中で、どんな戦いを見せるか大会前から注目していましたが、上手くいかなかったのは間違いありません。

また斉藤健仁さんは別の記事「女子ラグビー 2ヶ月間、ともに過ごし絆を深めたNZが金メダル! 東京で歓喜のハカを披露」もアップしていて、これは朝起きて読んだのですが、読み応えのある内容でした。

東京五輪の女子ラグビーを振り返る内容で、主にフィジーとNZが活躍した背景を伝えています。フィジーの女子はこれまで世界大会などで上位に入った経験がなく、銅メダル獲得は私もちょっと想像していませんでした。大会を終わってから、東京五輪のフィジー女子はリオ五輪の男子日本代表と似ているなと気づいたくらいです。男子の代表経験のあるサイアシ・フリHCが規律面を改善してきたとありましたが、やはり男子のノウハウを上手く戦略・戦術に落とし込めて、選手が自信をもって戦えたのでしょう。本当にこれまでの大会で見たことのない、フィジーの戦いでした。このレベルが安定したら、ワールドセブンズシリーズでも上位進出する強豪国になるでしょう。ただ代表強化が五輪イヤーのように毎年できるかは国それぞれなので簡単には言えないですね。フィジーの銅メダル獲得のプロセスは参考にすべきですね。

金メダルを獲得したNZ、私は2年前のワールドセブンズシリーズの戦いを見て、大会前から「金メダル獲得は間違いないだろうな」の予想でした。当時の記事がラグビーリパブリックにありました、こちら。予選でイギリス相手にミスから3トライを奪われた時は「嫌な流れだな」と思いましたが、その後のキックオフからすぐにトライを返したのを見て「これで息を吹き返して逆転だな」と思ったら、やはりその通りになりましたね。フィジーとの準決勝、3トライ目を奪って逆転した後半のラストプレーのキックオフのミスからフィジーに同点に追いつかれました。それでもこれまでの大会を勝ち抜いた経験、チームの成熟度は明らかにフィジーより上なので、延長戦になったら勝ち切るだろうなと思っていたら、やはりその通りになりました。前回リオの決勝で豪州に惜敗したNZ、そこから若い世代も加わり、まさに国を挙げての強化が実を結んだと感じました。記事の最後のほうにはブラックファーンズのハカの歌詞についても紹介しています。改めて、読み応えあります。

紹介する記事をもう1つ。リオ五輪でチーム日本を4位に導いた瀬川智弘さんが産経新聞に投稿していました。「【チェックEYE】ラグビー完敗、態勢づくりを 瀬川智広氏

男女の振り返りとなっていますが、まさにその通りといった内容です(もちろんリオ五輪を経験した瀬川さんだからそう感じさせるのもありますが)。女子は「コンタクトレベルに世界と大きな差があった」、やはり他の国の選手との体格差は大きかったですね。同じアジアの中国も以前からサイズはありましたが、東京大会での中国はさらにパワフルさと戦略・戦術を身につけて8強入りすると、トーナメントの3試合も堂々と戦い、最後はROCを破って7位になりました。予選で豪州、中国に完封負けした時の日本のような迷い、不調はなかったですね。ここからパリ五輪に向けて、さらに強化が進めば世界でも活躍するチームになるかもしれません。あとは日本のセレクションにも触れて「若手と経験のある選手のバランスが必要だった」と書いているのと、若い選手が体を張れていたとポジティブな面を評価もしています。

その他、リオ五輪からの変化や男子については東京五輪後の代表候補メンバーの選考について危惧していました。これについては劇的には変わらないというか、男子の国内が15人制がメインで新リーグの開幕を控える中、東京五輪に向けてトレーニングしてきたメンバーから大きく変わってしまうかなと感じています。女子はどちらかといえば国内は7人制がメインなところがあります。太陽生命WSSという世界でも類を見ない国内シリーズの冠大会があり、今はむしろ15人制の試合の機会をどう作るか、が議論になったりもしますね。

3つの記事を紹介してみましたが、これを読めばほぼ大会の総括が出来る内容です。これらはあくまで外から見た内容なので、実際に戦った選手・スタッフはまた別の感想があったり、強化のシステム含めた課題を感じているのかもしれませんね。ただ直近の課題は「フィジカルとスピードの差をどう埋めるか」これは試合を見た関係者も現場も同じだと思います。日本はユースアカデミーで中高生のタレントある有力な選手を合宿などで鍛えていきますが、やはり若い選手を5年以上かけて育成するのか、または陸上の短距離選手やほかの球技からサイズやスピードのある選手を発掘して3年かけて代表レベルに持っていくか、いずれにせよこれまでやってきた「女子ラグビー界の中で上手い、速い選手を代表チームで鍛えていく」計画に加え、新たな強化策が求められていると感じる東京五輪の戦いでした。

最後に昨日のブログを投稿した後に、ハッシュタグ「#7人制女子ラグビー改革素案」をつけてSNSで発信した主務の部屋さんから返信で、「ぜひ聞きたい」とご指名を受けました(主務の部屋さんは旧知の仲です、念のため)。下に呟きを載せますが、経緯はこんな感じです。次回はこれに被せるというか、提案について自分の考えを整理して答えていきたいと思います。

東京五輪、女子セブンズは全敗の12位で悔しい終戦

29日から行われた女子7人制ラグビー競技、日本は予選の3試合、9位~12位決定戦の2試合、1勝もできずに12位で大会を終えました。リオ五輪で金メダルを目指しながら10位に終わってからスタートした5年間の強化の集大成。悔しい、という言葉では表しきれない深い悔しさは選手、スタッフ、そして応援したファンの皆様にも多いのではないでしょうか。

大会5試合のスコアはこちら。5試合で6トライ、36点、そして失点は136点。
予選1戦目 VS豪州 0-48
  2戦目 VS米国 7-17
  3戦目 VS中国 0-29
トーナメント1回戦 VSケニア 17-21
11位決定戦 VSブラジル 12-21

大会期間中、日本協会HPには試合の結果と選手コメントが比較的早くアップされていました。忙しい中の情報提供、ありがたいですね。今日の昼にアップされた大会を終わってのヘッドコーチ、選手のコメントはこちらです。また中日スポーツさんも小出選手のコメント「日本は5年前より成長したが、世界のレベルに達していなかった」をタイトルに入れた記事をアップしていました、こちらです。個人的に大会の3日間を振り返ろうと思います。正直に思ったことを書くので、見苦しい文もあるかもしれません。ご了承ください。

試合展開を振り返ると5試合を通じて、リードする時間は短く、7点差より開くような展開もありませんでした。開始から相手DFのプレッシャーを受けて、前に進めずに、どうアタックしするか迷ってしまい、ボールを奪われて一気に得点される場面が予選の3試合では目立ちました。見ていて日本はどういう戦術、戦い方をやりたかったのか。人とボールが動くラグビー、という言葉も出ていたと思います。しかし見ていてそうした意図を感じさせるアタックの時間帯は短かったです。ケニア戦やブラジル戦の1トライ目はそれが感じられて良かったですね。裏へキックする場面もありましたが、きれいにトライに繋がったのはケニア戦の永田選手からのキックをキャッチした小出選手のトライくらいでしょうか。単純に相手に脅威を与えるようなアタックが出来なかった、キックは蹴らざるを得なかった印象もあります。

DFに目を向けると、3トライを奪ったほうが勝利の可能性がかなり高いセブンズで、5試合すべてで相手に3トライを奪われています(ケニア戦は最後に逆転された展開でしたが)。入場する様子を見た時点で、海外勢との体格差を感じた方は多いと思います。それは試合を見ていても、懸命にタックルに行きますが、1対1のフィジカルのバトルで負けているのを痛感しました。タックルに行く日本の選手が体を当てて倒すというより、当てて掴んで倒れているイメージでしょうか。またDFでタックルを外されてそのまま独走される場面が目立ちました。選手の絶対的なスピード不足は得点に現れました。8強に進んだチームの試合を見ていると、自陣から独走されてもカバーするDFが追い付いて止めて粘ります。日本はハーフラインを超えた時点でもう振り切られていて、相手が減速してポスト下にトライ、みたいな場面が多かったです。これは最終戦の前半のブラジル戦でもありました。

5年前のリオ五輪の試合を見た時に感じたのは、最初のキックオフでボールをキープできないのが課題でしたが、東京五輪ではプレッシャーはあれどしっかり対応できていたほうでした(むしろ男子のほうがかなりやられていました)。そしても1つの課題は圧倒されていたフィジカルとスピードの差、ここは上回るのは難しいけれども、最低限ファイトして我慢できるくらいのものはないと厳しいなと感じていました。この課題2点を東京五輪に向けてどう克服するかが、個人的には代表強化のキーファクターかと思っていましたが、今回の5試合を見て、フィジカルの差は埋めきれませんでした。むしろコロナ禍で大会が1年延期したことで、海外勢がそこを強化してきて、日本が遅れを取ったのかもしれません。

選手の大会期間中のコメントを見ると「(前の試合は)良くなかった(やりたいことが出来なかった)けれど、(次の試合で)修正、成長できた」みたいな言葉がありました、確かにそうですし、苦しい試合が続く中でのポジティブなコメントだとも思います。それでもこれまでの長く厳しいトレーニングを積み重ねて、準備をしてきてようやく訪れた本番の舞台で、そのような言葉が出るのはかなり悔しいですね。見ていて力を出し切れなかったというより、相手のプレッシャー(強さと速さ)を受けて力を出せなかった場面が多かったのが予選の3試合でした。

目標としていた8強進出を逃し、気持ちを切り換えて挑んだトーナメントの2試合は、過去に勝ったこともある相手で、実力的にも勝つ可能性のある相手でした。そして自分たちが目指すラグビーを出来た時間帯もありました。しかし終盤に疲れも出て、プレッシャーのかかる中でミスも出て、最後にトライされてしまった。それまで開始から全力で戦ってきたからこそ、残り数分でメンタル含め、余力がなかったのかもしれません。個人もチームも勝ち抜く力が足りなかったということでしょう。得点と順位が残酷なくらいに表していると思います。

今回のチームはリオ五輪の経験者が2人、これまで代表チームを引っ張ってきたベテランの選手がセレクションから漏れて、かなり若がえったチームでした。内定メンバーが発表された時のブログを振り返ると「どんな戦いをするか、予想がつきません」と書いていました。メンバーのセレクションについてはどうこう言うのはおこがましいですが、今回の戦いを見ると、突破役となる選手がいないのがアタックの迷いに繋がったのかもしれません。内定メンバーから負傷で外れた松田選手、アメリカ戦の怪我で戦列を離れたライチェル海遥選手は、まさに突破役の選手でした。それと個人的には、バックアップに入っていた鈴木彩夏選手もワールドシリーズなどで仕掛けて抜け出すプレーができる選手だったので、いないのが残念な選手の1人でした。

他にも大会後の強化をどうしていくか、他のチームの強さの話など、まだまだ振り返り足りないのですが、ちょっと長くなったので今回はこの辺で。もう少し自分の中でも色々と整理して、次回以降のブログで書きたいと思います。ありがとうございました。最後にTwitterでも書きましたが、リオ五輪からこれまで代表の強化に携わってきたスタッフ、本当に厳しいトレーニングを重ねてきた候補選手皆様(本大会から外れたメンバー含め)、本当にお疲れ様でした。東京五輪、皆様の奮闘を見守り、全力で応援できました。ありがとうございました。

東京五輪のラグビー男女出場国が決定

20日の深夜に目が覚めてしまい、SNSを見ていたらフランス、モナコで行われた五輪の最終予選が話題になっていたので、せっかくだからとWorld RugbyのYouTubeでチェック。ちょうど女子2枠と男子1枠の出場がかかる最後の3試合をLIVEで見ることが出来ました。トライシーンを中心にハイライトも上がっているので、最後に紹介しています。

https://twitter.com/WorldRugby7s/status/1406644806391115783

東京五輪出場が決まった男女12か国は以下になります。スポーツライターの斉藤健仁さんが速報をTwitterで教えてくれました。WS上位や大陸予選など出場を決めた大会も載せてあり、わかりやすいですね。なお五輪の予選プール組み合わせは来週28日に発表されるそうです。

女子の2枠を争う試合はロシアとカザフスタン、フランスと香港というヨーロッパVSアジアという組合せ(南米やアフリカなどほかの地域は実力が劣るようです)になりましたが、予想としてはワールドシリーズでも戦うヨーロッパ勢相手にアジア勢がどんな戦いを見せてくれるかでしたが、やはり実力差は明らかでした。結果はロシアがカザフに38-0、フランスが香港に51-0と大勝、アジアシリーズで日本ともよい試合を繰り広げる2か国に違いを見せつけました。

試合展開ですが2試合とも似ていましたね。ロシアもフランスもキックオフのチェイスからプレッシャーをかけて、DFで素早く前に出て捕まえると、接点でも優位を見せてタックルで相手をひっくり返すなどビッグゲインを許さず。ボールを奪えば素早く仕掛けて1対1で抜いて走り切ったり、捕まってもオフロードで繋いだりであっさりトライを重ねて、前半で勝負を決めていました。この2か国とは東京五輪の予選プールで戦う可能性もありますが、ここ数年のワールドシリーズでも何回かロシアには勝った位で、フランスには私の中で勝った記憶がないです・・・どちらもメダルの可能性がある強さですね。

この2か国に限らず、WS上位などの強豪国を相手にどう日本の強みを見せて戦うかが大事になりますし、それはリオ五輪の前から強豪国と日本の立場は変わりません。負けるパターンの1つはキックオフの競り合いで負けたり、DFでプレッシャーを受けてボールを動かしての有効なアタックの機会を作れずに、ターンオーバーされて一気にエースに走られてトライを連続で決められるのがあります。日本はその強烈なプレッシャーの中で、自分たちの強み、スタイルをいかに出せるかどうかですね。その辺はまた近くなったら書こうと思います。

最後に最終予選で出場を決めた3か国は、試合終了直後に大喜びしていました。それを見ながらやはりオリンピックというのはワールドシリーズやW杯とも違う特別な舞台なんだなと。そして新型コロナの影響で1年延期になったうえでようやく大会直前に訪れた最終予選ということで、各参加国にそれぞれのドラマがあると感じました。本番でも新型コロナのいやな空気を吹き飛ばすような素晴らしい試合を見せてほしいですね。

ロシアは攻守にわたってカザフスタンを圧倒、前半の4トライで勝負を決めました。
フランスは前半で5トライを奪い圧勝、選手の体つきが大きくこの1年でかなり鍛え上げられています
男子のフランスとアイルランドの試合は激戦に、5点差を追いかける後半のアイルランドの7番の走りから始まる逆転劇に注目。動画にはありませんが、ライン際のコンバージョンもしっかり決めて素晴らしいチームでした。